先日、(財)日本ラグビーフットボール協会の広報の仕事として、千葉県・柏市の柏ラグビースクールを取材しました。ラグビーワールドカップ2019の熱狂から、ラグビースクールでプレーする子どもたちは全国的に増えているのですが、特に柏市は、オールブラックスの事前キャンプ地に選ばれたこともあり、ラグビーの盛り上がりが高いレベルで持続していることが分かりました。
その”持続させている熱源”のなかでも、精力的に活動されているのが、大中哲宏さん(T2 RUGBEAT CREATIONS代表)です。ラグビーのコーチングを通して、地域のラグビー普及に尽力されており、以下のように実に多彩な展開をみせています。
■「T2 RUGBEAT ACADEMY」を主宰
https://t2-rugbeat.jimdofree.com/
昨年の11月29日にスタート。小学3年生〜中学3年生を対象に、平日の夜にラグビーができる環境を提供。今年の2月末の時点で在籍40名。新型コロナウイルスによる自粛期間を経て6月9日に再開。10月末の時点で在籍は66名に。
当初は週2日だった練習日、現在は週3日(火・水・金)、18:30〜19:50。練習場所は市内の麗澤(れいたく)ラグビー場。アカデミーの名称の「T2」はお名前からつけたそうです。
■麗澤中学・高等学校 中高ラグビー部(男女)
今年の4月からは同部の外部コーチ。アカデミーでも使用している麗澤ラグビー場は、麗澤中学・高等学校の施設で2018年完成。人工芝・照明施設完備。
■「柏の葉スポーツアカデミー」
http://football-ac.net/rugby/index.html
一般社団法人フットボールアカデミー主催。本来は今年の4月スタートのところ、新型コロナウイルスによる自粛期間があり6月にスタート。こちらでは小学生を対象に(10月末時点で在籍12名)タグラグビーを指導。場所は市内の柏の葉小学校。
■柏女子ラグビー練習会
https://www.facebook.com/rugbykashiwaladies/
今年の9月末に始まったばかり。小学4年生以上の女子が対象。麗澤中学・高等学校でコーチを務める元女子日本代表(15人制)選手2人がコーチに(及川由季氏・山あずさ氏)。「T2 RUGBEAT CREATIONS」も活動をサポート。
■「柏ラグビースクール」
柏市を拠点とするラグビースクールで、小学生・中学生を対象に、強化を目的としたチーム指導を定期的に行っている。
■コーチへのコーチング
大中氏の大きなテーマのひとつがコーチへのコーチング。麗澤中学・高等学校、柏ラグビースクール、故郷の広島等で、不定期に実施中。たとえばラグビースクールの場合、いわゆるお父さんコーチがコーチの担い手として重要であるので、子どもたちのラグビー環境の充実を考えると、お父さんコーチのレベルアップが大切と大中さんは考えている。また、T2 RUGBEAT CREATIONS 主催で定期的に親子ラグビー体験会を実施し、保護者にもラグビーを知ってもらう取り組みも行っている。
タイで代表チームを率いるなど、異色の経歴
大中さんは広島県出身。小学生のときからラグビーを始め、広島県立安芸南高校からラグビーを日本体育大学に進みます。その後、流通経済大学、そして流通経済大学付属柏高校で教師をしながらコーチを務め、そのあと2013年から2018年9月まで、プロコーチとしてタイに渡ります。
「ワチラウッド・カレッジ(英国のパブリックスクールを模した、日本でいう小学5年から高校3年までの年代が通う学校)というタイでは有名な王立学校がありまして、そこのコーチに就任しました。最近亡くなられたのですが、そこのOBでアジアラグビー協会会長も務められた方が、日本ラグビーフットボール協会の当時の森喜朗会長(現東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長)と親交があり、日本からコーチを派遣してくれないかといった打診があったのが始まりです。その話がアジア協会理事だった上野裕一先生(流通経済大学学長補佐)に回ってきて、どうだ行ってみないかと言われて」
ワチラウッド・カレッジで3年間を過ごしたあと、やはりタイ協会の要請で、タイ代表(男子15人制)のアシスタントコーチを1カ月ほど務め、そしてU20女子セブンズタイ代表、そして女子セブンズタイ代表のヘッドコーチに。U20では「中国と日本が不在だったとはいえ、アジアチャンピオンを獲ることができた」し、女子セブンズタイ代表では2016年のスリランカでの大会で、優勝した女子セブンズ日本選抜に予選プールで勝利するという快挙も。
(以下はアジア協会による試合映像です。残念ながら音声は入ってないようです)
「ワチラウッド・カレッジでは、成果といえるような成果を上げることはできなかったのですが、その後女子のセブンズを指導していくなかで、自分の中でも変化があり、手応えを感じることができました」と大中さん言います。
このように、国内外で多彩なコーチング経験を経てきた大中さんが、冒頭で紹介しているように、昨年末から次々と新しい試みに挑戦し始めている柏のラグビー。「先のことはあまり考え過ぎない」とのことですが、「とにかく柏の地のラグビーを、もっと盛り上げていきたい」と話してくれました。
コーチングの動画配信も
「アカデミーを始めてみて思うのは、中学でラグビー部があるところは限定されるし、平日にもラグビーをもっとプレーしたいという子が多いということ。T2 RUGBEAT ACADEMYの活動を通して、いわゆるラグビースクールと連携しながら新しい枠組みでラグビーを広めていく、ひとつのモデルケースをつくっていきたいと考えているのです」
さらに大中さんは、インターネットを使って、サブスク課金によるラグビーのコーチング動画の配信も始めようとしています。「試験的にはスタートしているのですが、最終的に11月中にはシステムが完成する予定です」
「今回始めるサブスクの動画もですね、小・中学生の子どもを持つ保護者の皆さんに気軽にコーチングを学んでほしいので、たとえば親子でできる練習メニューとか、そういったことを採り入れていきたいと思っています」
「これまで小学生や中学生の世代に対して、腰を据えてコーチングをしてきたことがありませんでした。でも日本に帰国して思ったことは、この世代こそが日本のラグビーを盛り上げるうえで大切なところだし、また面白いところでもあると考えたのです」
大中さんの今後の動向に、注目していきたいと思います。