ピラティスのロールアップと元オリンピック選手のアドバイス

with Rugbyでは、ラグビーを中心に情報発信を行う一方、バスケットボール界で活躍している旧知の森川靖氏(コンディショニング・コーチ、ファーストステップ代表)のメソッドを積極的に紹介しています。その内容は、インナーマッスルのコンディショニングによるパフォーマンスアップで、広く競技スポーツに応用できます。

実はこのメソッド、一般向けのフィットネストレーニングといいますか、適度な室内運動としても有効なエクササイズも多いのです。そういうわけで、2020年の春から新型コロナウイルスの影響で自粛期間(ステイホーム)が続くなか、自分も活動量低下による体重増のトレンドに見舞われていたので(もともと毎日体重を計る習慣をもっていました)、森川メソッドを導入してみました。その結果、体重減と、その後もほぼその状態をキープすることに成功しています。インナーマッスルを刺激することで、基礎代謝アップ等の効果によるものと考えています。

以上のことは、想定内のこと。本題はここからです。

ロールアップは腹筋のトレーニングではない

森川メソッドのエクササイズのなかから、自分が何を行ったかというと、下記の小冊子『スポーツ・パフォーマンスを高めたかったら“しっぽ”を動かしなさい』を参考にいくつかを試し、ある程度リピートしているのは2種目くらいのものです。

小冊子『スポーツ・パフォーマンスを高めたかったら“しっぽ”を動かしなさい』
体幹部のインナーマッスルをうまく使うには、力を発揮するにはどうしたらいいのか。そのためには「“しっぽ”を動かす」=「へその下を引っ込めて“仙骨を締める”」。“しっぽ”の動かし方について解説した一冊。(A5判・122ページ。2020年7月1日発行)

体幹部のインナーマッスルをうまく使うには、力を発揮するにはどうしたらいいのか。そのためには「“しっぽ”を動かす」=「へその下を引っ込めて“仙骨を締める”」。“しっぽ”の動かし方について解説した一冊。

『スポーツ・パフォーマンスを高めたかったら“しっぽ”を動かしなさい』より

その2種目は「アブドミナル・スクイズ」と「ロールアップ」です。本当なら、他にもいろいろあるので、もう少しバリエーションがあったほうがいいのだろうとは思いますが、自分の場合、アスリートでもないし、あまり詰め込むと継続しなくなってしまうので、そのへんは割り切っています。
(2種目のみにしぼっても、最近は頻度が落ちて、月に2回程度になってしまっているかもしれません。もう少しやらないと‥‥)

アブドミナル・スクイズ
アブドミナル・スクイズ
ロールアップ
ロールアップ

「アブドミナル・スクイズ」は呼吸のエクササイズで、骨盤周辺のインナーマッスルを緩める目的で行うもの。詳しくはここでは書きませんが、ぼく自身にとってこれは、なにがどうなっているかはともかく、股関節が緩んで脚が外旋する(つま先が開いていく)という、かつて感じたことのない感覚が得られたお気に入りのエクササイズで、機会があればこのことも改めて書いてみたいと思います。

「ロールアップ」は、ピラティスでは定番のエクササイズなので、あ、それ知っている、という方もいらっしゃるかと思います。でも、検索すると「腹筋運動」とか「腹筋を強化するための運動」というふうに紹介されていることが多く、誤解されている人が多いようです。「腹筋を強化する」は誤りです。むしろ腹筋(腹直筋)を使わないエクササイズです。だから初心者には難しい。

前出の森川さんの本でも、通常のシットアップ(腹筋運動)とは異なり「腹直筋を使わないで」行うと書かれていますし、勉強のため森川さんに教えてもらった文献でも確認しました。日本でのピラティスの第一人者といっていいと思いますが、1995年に日本人で初めて国際インストラクター資格を取得された高田遵湖(たかだゆみ)・聖心女子大学名誉教授へのインタビューを中心にまとめられた記事に「ロールアップ」の説明があります(『月刊スポーツメディスン』2005年No.70、ブックハウスHD)。一部引用します。

「背臥位で、呼気しながら腕を前方に伸展しながら頚椎、胸椎を使いロール・アップする。このとき脊椎の一個一個が床から離れるように、かつ、車輪が転がるようにコントロールする。大きなボールの上に、体を預けたように置き呼気する。このとき腰椎は、腹横筋で支えられ、腹部はスクープされる」

引用文の最後のところで明記されているように、上体は腹直筋ではなく、腹横筋を働かせて挙げてくる、というのがポイントです(「腹部はスクープされる」というのは、腹部を引っ込めるということを表していて、森川メソッドの「“しっぽ”を動かす」=「へその下を引っ込めて“仙骨を締める”」に通じる動きと思われます)

ヒントはアルペンスキーのオリンピック選手の言葉

ロールアップについていろいろ書いてきましたが、実は自分の場合も、ロールアップがなかなかできませんでした。「“しっぽ”を動かす」とか「へその下を引っ込めて“仙骨を締める”」ということについて、その概念は理解できても、実際の動きがうまく習得できなかった。ロールアップのところでも、ロールダウンのところでも、腹直筋を使ってしまう状態が数週間続きました。

森川さんの本では、つま先を手前に向けるのがコツ、とあったので、足首を曲げるなどしていろいろな力の入れ方を試していました。するとふと、大学生当時にスキーがうまくなるコツを教わったときのことが思い出されました。

「フジモトくん、両脚をこうやって内側に絞る意識でターンしてみて」
これは自分にとって魔法のような言葉で、このアドバイスのおかげでたちまちスキーが上達しました。それまではパラレルターンがきれいにできなくて、なんちゃってパラレルターンといっていいような、力任せのターンでした。それが「両脚を内側に絞る意識」でやってみたら、きれいにターンができる。小刻みなターンはもちろんのこと、憧れていた半径10m以上の大きな弧を描くターンもできるようになりました。うれしかったし、あまりに劇的に上達したので、記憶に強く残っています。

それを教えてくれたのは、1980年、レークプラシッドオリンピックに出場して、アルペン勢としては最高の回転15位という成績を残した沢田敦さんでした。「両脚をこうやって内側に絞るんだよ」と、その後登場することになる「だっちゅーの」のポーズによく似た感じで、両腕を内に絞る動きで説明してくれました。

ひらたく言うと、「内股」の意識で滑るわけです。長い板をはき、なおかつ固いブーツをはいているので、実際に内股になるわけではないのですが、大腿から下腿までを「内旋」させるイメージで滑るのです。

ぼくはその頃、せいぜい年に1〜2回ゲレンデに通う程度の趣味スキーヤーでした。なんでそんな大学生がオリンピック選手に教わる機会があったかというと、あれは1980年のオリンピックから2〜3年あとのことだったと思います。ある企業が主催する「スキーキャンプ」のイベントがあり、その講師のひとりとして沢田さんが参加していました。教わるのは中学から高校生くらいの競技スキーの選手たち。自分はその企業のPR誌を制作する会社でアルバイトをしていて、取材のアシスタントのようなかたちで参加していました。多少滑ることができたので、沢田さんにずっとくっついていたのです。

そのときにスキーが格段に上達したので、沢田さんのことはいい思い出として強く記憶に残っていたわけですが、よもやロールアップのときにそのときのことを思い出すとは、不思議なものです。

それでロールアップができるように

そうなんです。「両脚を内側に絞る動き」を意識してみたら、ロールアップができるようになりました。できるようになると分かるのですが腹直筋を働かせていた場合と、そうでない場合では、お腹まわりの感覚がまったく違う。

ロールダウンの途中で体の動きを止めると、はっきりします。腹直筋メインだと、すぐに腹直筋がプルプルしてきて腹直筋で状態を支えていること実感します。ところが腹直筋がメインでないと、上体を腰の奥のほうで、しかもしっかりと支えている感じになります。

そしてこれこそが、森川メソッドの「“しっぽ”を動かす」=「へその下を引っ込めて“仙骨を締める”」であろうと思うわけです。そして今にして思えば、沢田さんというオリンピック選手は、「両脚を内側に絞る動き」=結果的に「“しっぽ”を動かす」動作を、天性のものとして会得していたのだろうとも思うわけです。

以上、森川メソッドとピラティスと、元オリンピック選手のアドバイスが結びついた、不思議な”インナーマッスル・ジャーニー”体験でした。ただこの旅は、もう少し続きます。果たしてこれは、新たな発見なのか、妄想レベルに過ぎないのか、次の行く先ではなんとマイケル・ジョーダンが登場するのですが、これはまた改めて。

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