2022年シーズン、ジャパンラグビー リーグワンの東京サントリーサンゴリアスに加入したダミアン・マッケンジー選手について書いてみたいと、ずっと思っていました。いわゆる体育会系のイメージから、かけ離れたところに立つ同選手が、日本のスポーツ界に少なからぬインパクトを与えてくれるのではないか、そんな思いがあったからです。
以下は、5月28日にツイートした内容です。少し加筆しつつ、ブログにものせておきます。
【SPIRITS OF SUNGOLIATH】
『仕掛ける』ダミアン・マッケンジーコロナ禍のためリモートインタビューですが、画面越しに聴く声が素晴らしいダミアン・マッケンジー選手。そんな魅力的な声で、ファイナルラグビーを語ってもらいました。https://t.co/7Xr0WF8uUU pic.twitter.com/iBkSNgP9Xz
— サンゴリアス君 (@sungoliath) May 26, 2022
ダミアン・マッケンジーについて書いてみたいと思いながら、なかなか書き出せず、とうとうリーグワンのプレーオフ決勝前日になってしまいました。
まず書きたかったのは「日本に来てくれてありがとう」。そして明日の決勝、特にゴールキックのシーン、楽しみです。
本来なら、2019年のラグビーワールドカップが日本で開催されたときに、ダミアン・マッケンジーはオールブラックスのメンバーとして日本でプレーしていた可能性が高かったのですが、その前に大きなけがをしたために、メンバー入りがかないませんでした。
その頃から、「マッケンジー、日本のチームに来ないかな」と思っていました。なぜなら、あのキックの前のスマイル。いわゆる体育会系とか根性とか、そういったものからかなり離れたところにある所作を、ルーティンに採り入れているという希有な存在が、もっと知られてほしかったからです。
ラグビーは半分格闘技のような球技です。ダミアン・マッケンジーだってタックルはするし、タックルされるし、かなりフィジカルなプレーもこなします。そういう競技特性のなかでの「にっこり」なので、なおさら落差が際立ちます。
ラグビー観戦の経験があまりない方に、マッケンジーのユニークさを説明するとすれば、次のようになるでしょうか。
パットを打つ前にニヤリとするゴルファー
にっこり笑ってからフリースローを放つバスケットボール選手
二コっと笑顔を見せてからペナルティキックを蹴るサッカー選手
他競技に当てはめるとこのような行為になると思います。少なくとも自分は、このようなプレーヤーがいるという話を聞いたことがありません。ダミアン・マッケンジーのルーティンは、それくらい希有な存在だと思うのです。
それに、ラグビーは、いってみれば”湿度”の高いスポーツです。汗、涙、などの単語が似合います。さらには、よほどの悪天候でなければ試合は中止にならないので、雨、泥、といったイメージもあります。そういったイメージの対極に、カラッとした爽やかな空気をまとったようなダミアン・マッケンジー。その対比が面白いと、個人的には思っていたのです。
あのルーティンはなぜ?
なぜあのようなルーティンを行うようになったのか。それは冒頭に紹介した東京サントリーサンゴリアスのインタビュー記事にあるように、ニヤリとすることでゴールキックを、どうってことのないいつものキックだと考え、プレッシャーを減らし、自分をリラックスさせるため。実に興味深い心理的なアプローチです。
でも、それでリラックスできるの? という疑問もあるわけです。ゴールキックはキッカーだけのプレーです。スタジアムの視線の多くが、キッカーに注がれます。相手チームは、キックの動作に入ったとたん、プレッシャーをかけに突進してくることもあります。
そういう否が応でも注目される状況のなか、ニヤリと笑う。相手チームや相手チームのファンから「あいつなに笑ってんだよ」と反感をかうことだってあるでしょう。そういう雰囲気を感じとったら、並のプレーヤーであればリラックスどころかさらに萎縮してしまうのではないでしょうか。
つまりダミアン・マッケンジーは、相手チームがどう思うだろうかとか、アウェイのスタジアムで、相手チームのファンからどう見られるだろうかとか、そういったこといっさいを気にしないという、強靭なメンタルをもともと持ち合わせているのだろうと想像します。
ラグビーワールドカップは来年、フランスで開催されます。そのときダミアン・マッケンジーはまだ20代。オールブラックスのキッカーとしてプレーする姿が、この大会で見られるかどうか、とても楽しみです。