子どもにとって「選択する自由」が大切なら、スポーツの現場こそ「選択させる環境」を提供しやすいのでは

9月3日に発表された、ユニセフによる「子どもの幸福度」。日本は総合で20位。「身体的健康」で1位だった一方、「精神的幸福度」は37位でワースト2位。この結果については各メディアで報じられたのでご存じの方が多いと思います。

この「精神的幸福度」がワースト2位という結果について、なぜなのかを解き明かそうと試みた記事があります。『「こころがボロボロ」子どもの精神的幸福度調査 日本がワースト2位の理由』です。
筆者の島沢優子氏は、子どもたちが自分で選ぶ機会、自分で決める機会が奪われていることが、精神的幸福度の低さに関係しているのではないかという仮説を立てて考察しています。この内容は、スポーツのコーチングにも多いに関係していると思いましたので、今回のブログのテーマとしました。実際、記事は、久保建英選手が移籍した、スペインのクラブ(ビジャレアル)でのコーチング改革の話から始まります。

指示ではなく、問いかける

ビジャレアルは昨年実績でスペイン代表に4人が選ばれているトップクラブで、2014年から各年代のコーチング改革に着手。胸にアクションカメラをつけるなどしてコーチングの状況を記録・検証してくなかで、コーチたちは、一方的な指示や命令は効果的ではないと、そういったコーチングを減らしていく。代わりに問いかけて承認するということを重ねていく。そこを突き詰めていくとどうなるか。「3歳から意見を求められるビジャレアルの子どもたちは、こうして自ら考え、自己決定できるようになる。つまり、誰かの言われた通りに動くのではなく、すべて自分で選択する」ようになる、というのです。

(ビジャレアルのコーチング改革の試みについては、それを主導したのが日本人女性だということもあって、これまた興味深いので、同じ筆者による「久保建英が選んだスペイン・ビジャレアル驚きの『指導改革』の中身」もぜひ読んでいただきたいと思います)

それに対する日本の学校関係者の反応は、そうした教え方を学校に採り入れることが実際に可能かどうかはともかく、肯定的な反応が多かったので、筆者は「子どもたちに選択させることの重要性が、先生たちに周知されていることがわかる」としながらも、現状を次のように評価します。「実のところ、私たち日本の大人は、子どもたちに選ばせていないのだ」と。

キーワードは「選ぶ」「選択する」

「選ぶ」という行動について、それがいかに大切なことであるか。次に、コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授の研究が紹介されています。

「満ち足りた環境にいるはずの動物園の動物は、野生の動物たちよりはるかに平均寿命が短いのは、餌や行動など自分で選択することができないから」「企業の社長や幹部といった重い責任を伴う人たちの平均寿命は、生涯を従業員として終えた人たちよりも長い」といった調査結果。
そして各種の実験などから、人は小さな子どものうちから、選択することで喜びを感じること、逆に選択する自由を奪われると、ネガティブな感情が引き出されるという話は、実にシンプルながら新鮮です。

そこから筆者は、日本の学校の教育現場では、自分で考えて判断して選ぶという自由が制限されているのではないか、そのことが、幸福度の低さに現れているのではないかと考えます。

改めて感じるスポーツの価値

そしてこのブログでは、またスポーツの場に話を戻したいと思います。
これまで紹介してきたように、子ども判断させる、選択させるという環境が重要だというのなら、ビジャレアルの例もあるように、スポーツのコーチングの場でまさにその環境が提供できるわけです。

私が日本版を編集させていただいた『ラグビー・コーチウィークリー』(ジャパンライム)でも、各種スキルアップのためのドリルのような記事が多いなか、たびたびコーチングについての読ませる記事もあり、たとえば68号に収録した「もっとポジティブなコーチになろう」という記事では、次のような記述があります。

コーチは自由に答えられる質問(どうやって、いつ、なぜ、なにを、どこで)をしよう。すると、プレーヤーに何をしろと言うのではなく、対話を通じて、プレーヤーが自分で考えられる。「プレーヤーやアスリートに、ああしろこうしろと言ってきたコーチにとっては簡単ではない」し、「こういう解決を重視したアプローチは、ミスをすることが学びに欠かせないとの考え方につながる」

こうしたコーチングは、一朝一夕に実現できるものではないし、また一見すると回り道のようにも感じるので、辛抱強さが必要になってきます。しかし「選択させるという環境」を学校の教育現場に採り入れることを考えたら、ラグビーの現場、スポーツの現場での導入は比較的容易です。スポーツの現場は、考えて選択させる環境を提供しやすいのではないかと思うのです。

それにラグビースクール等では、「ティーチングよりコーチング」的な指導方針を指向されているところも少なくないし、プレー中は連続的に判断が求められるラグビーという競技特性からも(サッカーも同様と思いますが)「選択させるという環境」を提供しやすいのではないかと思うのです。

そう考えると、ラグビーなど状況判断が求められるスポーツの価値が、また高く感じられてきます。特に小学生・中学生の年代に対するコーチングの大切さを、改めて感じました。

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