ずいぶん前になりますが、そのことに名前がつく、言語化されることが大事だという一例で「歯を磨くときに水を出しっぱなしにしている状態に名前がつけば、水の節約になる」という話を聞きました。名前がつくかどうか、そしてどのようなネーミングかで、みんなの意識が変わってきます。
先月で休刊になるまで、編集者として制作に携わっていた『ラグビー・コーチウィークリー日本語版』でも、言葉やネーミングが大切という意味で印象に残っている記事があります。それは『ラグビー・コーチウィークリー日本語版』73号の「U18イングランド代表は、トレーニングの成果をいかにして試合に活かしたか」というもの。本国の『RUGBY COACH WEEKLY』編集長のダン・コットレルさんがU18イングランド代表を取材(元記事は2016年のもの)、コーチングスタッフがどのようにU18代表選手をコーチングしていたかという内容です。
取り上げられているひとつのテーマが「意図」でした。プレーヤーは意図をもって判断しなければならないという話のなかで、コットレルさんは次のように書いています。
「たとえば、ボールキャリアという言葉は使わない。その用語は、単にボールを持っているプレーヤーという意味だ」
ボールキャリアは、その他のラグビー・コーチウィークリーの記事には頻繁に出てくる定番用語であり、日本でもよく使われることはご案内のとおりです。それをあえて使わないようにする。
「その代わりに彼らは『ボールプレーヤー』を使う。そのように表現すると、そのプレーヤーには権限があり、意図を持っていることになる。常に自分たちの選択肢について考えてプレーしなければならない」
つまり「ボールキャリア=ボール保持者」ではなく、「スキルについて正確に、かつ野心的に説明する言語」(コットレル氏)として「ボールプレーヤー」を使うというわけです。「ボールプレーヤー」は、ボールをプレーする人を意味するわけで、プレーの中身には、パス、ラン、キック、あえてディフェンスに当たりにいきラックをつくる、など様々あり、いわば当事者意識をもたせる効果があるわけです。なるほどと思いました。
言葉を変えるだけで、プレーヤーの意識が変わる。プレーについて、それまでとは違った視点で考えるようになる。「スキルについて正確に、かつ野心的に説明する言語」は、他にもいろいろ創造できるのではないでしょうか。