いわゆる「How to もの」の本や情報は、一定以上の分かりやすさがないと話にならないという話

小学6年のとき、ギターで挫折した苦い思い出があります。その後、編集の仕事をするようになって、そのときの経験がおおいに活きているので、今となっては苦くもなんともなく、むしろ分かりやすさを追求するという、編集者としてのひとつの原点になっているので、感謝すべきかもしれません。

挫折したのはFというコードの押さえ方でした。

カーペンターズやビートルズを知り、なにか楽器をやってみたいと思っていた小学6年のとき、安いフォークギターを買ってもらいました。さっそく本屋に行って初心者向けのギターの教則本を買い求めました。始めに出てくるのは基本のスリーコード。音楽の授業でも「ドミソ、ドファラ、シレソ」の和音を習うのと同じで、「C、F、G」のコードの押さえ方がまず出てきました。そしてこの3つの音が出せると、いくつかの曲が弾けるようになるのです。

ですが、すぐにつまづきました。Cの押さえ方、Gの押さえ方については、きれいに音が出るかどうかはともかく、どうすればいいかは分かりました。けれどもFコードはお手上げでした。Fの押さえ方は以下のとおりです。

押さえるところが6箇所あるわけです。左手は総動員しても指は5本しかない。どう押さえたらいいのか‥‥ここで挫折しました。

「え、そんなことが分からなかったわけ?」と思った人も、まあ聞いてください。
そのときは家族も含め、ギターができる知り合いがいませんでした。そして当時は楽器を演奏している映像なんて手に入らないわけです。ビデオもなかった。お手上げでした。今ならYouTubeとかでいくらでも画像・映像が出てきますけど。

答えは以下の通りです。半年くらい後にもう1冊購入した教則本では、こんな感じで指の絵が描かれていたわけです。これなら一目瞭然です。

実際の写真はこのような指づかいになります。

「頭固すぎ。ちょっと考えれば人さし指で1フレットを全部押さえればいいことに気づくでしょ」というご批判は甘んじて受けます。でもこれはテストではないのです。料理の初心者に「大さじ1」と書いたら、その分量の説明がなければいけないように、「人さし指で1フレットを全部押さえればいい」という説明もあるべきなのです。

その後、しばらくは、その体験を思い出すことはほとんどなかったのですが、大人になって、たまたま編集の仕事などをするようになったら、よく思い出すようになりました。ああいう本は作ったらあかんと。
本とかパンフレット、ウェブサイトもそうですが、「たしかにそのほうが分かりやすいですね」とおっしゃっていただけるような仕事ができているのも、Fコードの体験があったからかもしれません。

現在、Japan Elite Kickingの君島さんの『勝つためのゴールキック』という電子書籍の制作を担当させていただいていますが、ここでもFコードの教訓を忘れずに取り組んでいきたいと思っています。

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